東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)237号 判決 1979年3月22日
原告
新井史夫
外九四名
右原告九五名訴訟代理人
駿河哲男
外二名
被告
国
右代表者法務大臣
福田一
右指定代理人
持本健司
外一三名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1及び2の事実については当事者間に争いがない。
二そこで本件処分の適法性について検討する。
1 原告らが公労法二条二項二号所定の一般職に属する国家公務員であるが国公法上の国家公務員ではないとする原告らの主張について見るに、いわゆる現業庁に勤務する職員に関する限りにおいて公労法と国公法との関係を見れば、公労法は、国公法二条所定の一般職に属する国家公務員のうちで現業庁に勤務する者を対象として、その労働関係を規律することを目的として制定された法律であることが、国公法二条、公労法一条、二条の各規定に照らして明らかであり、公労法は国公法に対して特別法としての地位を占めるものであるから、公労法上の国家公務員でありながら国公法の国家公務員でないものなど、すでに観念する余地がないのみならず、<証拠>によれば、原告らは、国公法二条二項所定の一般職に属する職員として規則八―一四により任用された非常勤職員であることが明らかであるから、原告らのこの主張は、すでにその余の判断をするまでもなく採用の限りではない。
2 次に、原告らは、公労法四〇条一項の規定により同法二条二項二号所定の現業庁の職員に対する国公法附則一六条、同法第一次改正法附則三条の各規定の適用が排除されるにいたつた結果、原告らに対する労基法の適用が復活した旨主張するので、この点について判断する。
(一) まず、労基法、国公法及び公労法の制定、改正の経過を右の判断に必要な限りにおいて見るに、労基法(昭和二二年法律四九号)は、その一部の規定をのぞき昭和二二年九月一日に、国公法(昭和二二年法律一二〇号)は、附則二条の規定をのぞき昭和二三年七月一日に、それぞれ施行されたものであるが、国公法は、右制定当初においては「現業庁、公団その他これらに準ずるものの職員で、法律又は人事委員会規則で指定するもの」を特別職として同法の適用外においた(同法二条一項、二項一二号、五項)。そのため、現行公労法二条二項所定の公共企業体及び現業庁の職員に対しては、労基法が全面的に適用されていたのであるが、昭和二三年七月二二日連合国軍最高司令官の内閣総理大臣あての書簡が発せられるに及び、政府は、直ちに「昭和二三年七月二二日付内閣総理大臣宛連合国軍司令官書簡に伴う臨時措置に関する政令」(昭和二三年政令二〇一号)を公布施行して、公務員の団体交渉権を否定し、かつ争議行為を禁止し、次いで、国公法第一次改正法(昭和二三年法律二二二号)を同年一二月三日に施行し、右改正法において、国家公務員の団体交渉権の否定及び争議行為禁止規定を国公法に折込むと同時に、現業庁及び公団の職員を一般職の国家公務員に組入れて同法の適用対象とし、更に同法附則一六条の規定を追加して一般職の国家公務員に対する労基法及び同法に基づき発せられる命令の適用を全面的に排除し、第一次改正法附則三条として「一般職に属する職員に関しては、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神にてい触せず、且つ、同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法及び船員法並びにこれらに基く命令の規定を準用する。」旨規定するにいたった。
(二) 他方、公労法(昭和二二年法律二五七号、当時の法律名は「公共企業体労働関係法」)は、その後成立した日本専売公社法(昭和二三年法律二五五号)及び日本国有鉄道法(昭和二三年法律二五六号)とともに、昭和二四年六月一日に施行されたものであつて、当時は、右の公共企業体の職員の労働関係を規律対象としていたのであるが、平和条約(昭和二七年条約五号)の締結を前にして発せられた連合国軍最高司令官の声明に依拠した労働関係調整法の一部改正法(昭和二七年法律二八八号)は、公労法の一部を改正し、公労法の名称を現行法どおり改めたほか、当時設立された日本電信電話公社の職員の労働関係をもその規律対象に加え、国公法附則一三条に基づく特例として公労法四〇条の規定を新設し、日本電信電話公社法(昭和二七年法律二五〇号)とともに昭和二七年八月一日に施行されるにいたつた。
(三) 以上の事実は、当裁判所に職務上顕著な事実であり、国公法が労基法に対して、いわゆる特別法の関係に立つ法律であることは、両法の立法趣旨(労基法一条、制定当初の国公法一条)はもとより、国公法第一次改正法が「この法律の規定が、従前の法律又はこれに基づく法令と矛盾し又はてい触する場合には、この法律の規定が優先する。」(現行国公法一条五項)旨の規定を附加し、これを確認していることによつても明らかであるし、公労法が国公法に対して特別法の関係に立つものであることは、すでに述べたとおりである。
(四) そして、以上の立法の経過にかんがみれば、前記労調法の一部改正法の施行により公労法四〇条一項の規定が発効するまでは、現業庁の職員の労働関係については、労基法は適用されず国公法及び同法に基づく法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない限度で労基法その他の法令の規定が準用されていたにすぎないことが明らかであり、公労法四〇条一項は、右の労基法の不適用等を定めた国公法附則一六条及び同法一次改正法附則三条の規定を現業庁の職員に対しては適用しない旨規定するにいたつたのであるから、この点だけを見れば、成程原告らが縷々主張するように公労法四〇条の規定の新設により、現業庁の職員に対する法律関係は、国公法第一次改正法施行以前の状態に復元され、再び労基法が全面的に適用されるにいたつたと見られないでもない。
然しながら、公労法四〇条一項は、右のような現業庁の職員に対して国公法附則一六条、同法第一次改正法附則三条の各規定を適用しない旨のみを規定しているのではなく、同時に、国公法三条二項から四項まで、一七条、一九条、二〇条、二二条、二三条、七一条、七三条、七七条、八四条二項、八六条から八八条まで、九六条二項、九は条(一項及び四項をのぞく)、一〇〇条四項及び一〇一条三項の各規定(以上の条文番号は、昭和四〇年法律六九号による改正を経た現行条文による。以下、同じ。)も現業庁の職員に対しては適用しない旨規定しているのであつて、このことと公労法四〇条三項(昭和三七年法律一六一号による改正前の公労法四〇条四項、以下、現行法の条文番号による。)が、同条一項の規定は、現業庁の職員に関しては、その職務と責任の特殊性に基づき国公法附則一三条所定の同法の特例を定めたものである旨規定している趣旨を合せ考えると、公労法四〇条一項の規定が新設された趣旨は、現業庁の職員が、前記のように一般職の国家公務員とされながら、その職務と責任は、国の経営する企業に勤務する職員としてのそれであつて、他の一般職の国家公務員の場合に比較して、全く特殊であること及びその労働関係につき公労法の適用を見るにいたつたことにかんがみ、国公法の規定のうち、現業庁の職員の一般職の国家公務員としての勤務関係その他を規律するうえにおいて不可欠と見られる諸規定を残置し、現業庁の職員の労働関係について公労法を適用するにつき抵触する規定のみを排除したものであり、国公法の規定中適用を排除された規定の律する分野については、公労法及び労働法によつて規律しようとしたものと解されるのであり、従つて、公労法四〇条一項の規定により適用されないこととなつた前記の各規定以外の国公法の規定は、依然として現業庁の職員に適用されるのであり、公労法四〇条一項の規定により国公法附則一六条、同法第一次改正法附則三条の各規定の現業庁の職員に対する適用が排除された結果現業庁の職員に対し労基法の適用の余地が生じたのは、その事項に関して国公法又は公労法に規定のない場合に限られるのが当然であつて、原告らが主張するように、公労法四〇条一項の規定の新設によつて、現業庁の職員に対する労基法の適用が全面的に復活したと解釈することはできないし、また国公法と労基法の関係が右のとおりである以上、一事象に対して右の両法律の規定が競合して適用され、その間に矛盾抵触を生ずる余地などあり得るはずがないのであるから、原告らが主張するように国公法と労基法の規定の間に、前法後法の関係を生ずる余地もないのである。
そして、これを現業庁の職員に対する懲戒の関係において見るに、労基法は広く事業に使用される労働者を保護するために最低限度の労働条件等を規定した一般法であり、他方、国公法は、その対象を国民全体の奉仕者である公務員に限定し、公務員に適用すべき各般の根本基準を確立し、公務員がその職務遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で選択され、且つ指導されるべきことを定め、もつて国民に対し公務の民主的且つ能率的な運営を保障する目的で制定されたものである。私企業における懲戒制度の目的は、主として職場規律ないし企業秩序の維持にあり、しかも労基法は、同法八九条一項九号の規定で懲戒の種類、事由、程度が就業規則において定められることを予定しているため、同法九一条の規定において減給の程度について制限しているにすぎないが、公務員関係における懲戒制度は、その地位の特殊性から、公務員に対し、信用失墜行為の禁止、政治的行為の制限、私企業からの隔離、他事業等への関与禁止等種々の服務義務を課すとともに、国公法八二条の規定において、免職、停職、減給、戒告の制度を定めさらに、規則一二―〇で公務員の懲戒について詳細に規定し、公務員秩序維持の観点から厳格な態度で臨んでいるものであり、公務員関係の懲戒制度は私企業のそれとは本質的に異るものであつて、それ自体が公務員制度と密接不可分の関係にあるというべきであるのみならず、公労法四〇条一項も、前記のように人事院の懲戒権限に関する国公法八四条二項の規定は、現業庁の職員に適用しない旨規定するが、一般職の国家公務員の懲戒に関する同法七四条、八二条、八三条、八四条一項及び八五条の各規定の適用は排除していないのであるから、これらの規定は、すべて当然現業庁の職員にも適用されるのであるし、しかも、国公法七四条一項は「すべての職員の分限、懲戒及び保障については、公正でなければならない。」とし、同条二項で「前項に関する根本基準の実施につき必要な事項は、この法律に定めるものを除いては、人事院規則でこれを定める。」と規定し、懲戒の具体的基準について規則に委任することを明言し、右委任に基づいて規則一二―〇が制定されているところ、同規則三条は「減給は、一年以下の期間、俸給の月額の五分の一以下に相当する額を、給与から減ずるものとする。」旨定めているのであつて減給について、右のごとく国公法七四条二項の規定の委任に基づいて規則一二―〇・三条の規定で定められている以上原告らが主張するように、この関係において労基法九一条の規定の適用される余地はない。
以上のとおりであるから、公労法四〇条一項の規定の存在を前提とする主張はすべて理由がない。
3 原告らは、右以外の理由をあげて原告らの懲戒については労基法九一条の規定が適用されるべき旨主張するので、これらの点につき、以下順次判断をする。
(一) 原告らは、公労法八条二項の規定で懲戒の基準に関する事項を団体交渉及び労働協約の対象とすることができる旨定められ、一方、同法四〇条一項の規定で国公法三条二項、八四条二項の各規定の適用を排除していることは、人事院が公労法の適用を受ける原告ら現業庁の職員の懲戒について何ら関与しないという趣旨であり、右趣旨に反する国公法関係法規はすべて現業庁の職員には適用されず、現業庁の職員に対する懲戒については労基法の規定のみが適用される旨主張するので検討するに、国公法第一次改正によつて一般職に組み入れられた現業庁の職員は、国公法によつて労働協約締結権を伴う団体交渉権が否定されていたが、昭和二七年の労働関係調整法等の一部改正法によつて現業庁の職員に公労法が適用され、労働協約締結権を伴う団体交渉権が付与されるとともに、他方同法四〇条一項の規定で国公法中右団体交渉権の行使と矛盾牴触する規定を逐一列挙してこの適用を排除したこと、国公法の懲戒に関する規定中、適用が排除されたのは八四条二項の規定のみであることは前記のとおりであつて、右のごとく現業庁の職員に対し労働協約締結権を伴う団体交渉権を付与することと、右職員に対する懲戒につき国公法の規定を適用することとは何ら矛盾牴触するものではないから、原告ら現業庁の職員に対しこれらの規定が適用されるのは当然であつて、原告らの右主張は失当である。
(二) 原告らは、公労法四〇条一項の規定は、国公法附則一三条所定の特例を定めるものであり、同条で国公法附則一六条の規定の適用を排除している趣旨によれば、労基法九一条の規定は、規則一二―〇・一条所定の「法附則一三条の規定によ」る「法律」の「別段の定め」にあたり、従つて、同規則三条の規定は、原告らに対しては適用されない旨主張する。たしかに、規則一二―〇・一条は「職員の懲戒は、官職の職務と責任の特殊性に基づいて法附則第一三条の規定により法律又は規則をもつて別段の定めをした場合を除き、この規則の定めるところによる。」と規定しているが公労法四〇条の規定の立法趣旨はすでに述べたとおりであり、もし、原告らが主張するとおりであるとすれば、同条の規定により国公法七四条の規定の適用をも排除すべきであるにかかわらず、これを排除していないことは、すでに見たとおりであるし、国公法と労基法との適用関係を前記のように解釈しなければならない以上労基法九一条の規定を規則一二―〇・一条で規定する「別段の定め」に該当すると解釈することはできないから、原告らの右主張は失当であるといわなければならない。
(三) 次に、原告らは、人事院は公労法の適用を受ける職員に対し一般的人事行政権を有しないから、原告らに対し右人事行政権に基づいて制定された規則一二―〇・三条の規定を適用する余地はなく、労基法九一条の規定が適用されるべきであると主張する。そして公労法四〇条の一項の規定が人事院の権限につき定めた国公法三条二項の規定の適用を排除していることは、前記のとおりである。しかしながら国公法三条二項ないし四項の規定は、人事院の権限を包括的、一般的に宜言したものにすぎず、人事院の具体的な権限は、それを定めた個々の法条に依拠するものであるから、公労法四〇条の規定により国公法三条二項ないし四項の規定を排除したことによつて直ちに人事院から原告ら現業公務員に対する人事行政権限を全面的に剥奪したものということはできず、公労法四〇条の規定によつてその適用を排除されなかつた国公法の規定に基づく個別的な権限は、依然人事院に属するものといわなければならない。しかして減給処分について設けられた規則一二―〇・三条の規定が国公法七四条二項の規定の委任に基づくものであり、同条の規定は公労法四〇条の規定によつてその適用を排除されていないことは前記のとおりであるから、人事院が原告ら現業公務員に対し人事行政権を有しないことを前提とする原告らの主張は失当である。
3 以上のとおり、原告ら現業庁の職員に対する減給処分については国公法の規定及びこれに基づく規則一二―〇・三条の規定が適用されるところ、本件減給処分は、いずれもこれらの規定に基づき、その所定の範囲内でなされていることは明らかである。
三次に、本件減給処分の国公法違反及び信義則違反ないし処分権の濫用の主張について検討する。
1 原告らは、原告ら「常用作業員」「定期作業員」が、その任用について国公法に定めがなく、国有林野事業独特の「作業員」制度に基づく期限付任用の特殊な国家公務員であり、処遇についても林野庁のいわゆる定員内職員と異る定めがなされているので、原告らに対し規則一二―〇・三条の規定に基づいて減給処分を行うことは、国公法の建前若しくは同法七四条の規定の趣旨に照らし許されない旨主張するが、原告らが一般職の国家公務員であり、規則八―一四に基づく非常勤職員であつて、国公法の懲戒に関する規定中、公労法四〇条一項の規定により適用が排除されているのは八四条二項の規定のみであつて、七四条二項及びその余の懲戒の規定の適用が排除されていないことは前記二の2記載のとおりであるから、原告ら「常用作業員」「定期作業員」の処遇が林野庁のいわゆる定員内職員と異る定めがなされ、国公法上分限、保障等の規定の適用が排除されているからといつてこれを理由として、原告らに対する減給処分について規則一二―〇・三条の規定を適用することが、国公法の建前若しくは同法七四条の規定に反するものとまではいえず、原告らの右主張は失当であるといわなければならない。
2 次に、原告らの信義則違反ないし処分権の濫用に関する主張について検討するに、<証拠>を綜合すれば、なるほど定員内職員と異なり「常用作業員」の雇用期間は、形式的には有期(二箇月)とされてはいるが、右の雇用期間は例外なしに更新され、実質的には期間の定めのない終身雇用であり、また「定期作業員」は毎年一定の期間を定めた雇用であるが、林野庁は昭和三七年一一月一六日に全林野労働組合との間で取交した約定に従い、「定期作業員」が期間満了により一旦退職しても、当該営林署の事業実行上の事情が同様であれば、翌年度も当年度に雇用した者を優先に雇用することが確認されており、また解雇に関しては、国公法七八条四号に定める場合を除いて同条の規定の適用があつて、定員内職員と同様の身分保障があること、更に賃金制度についても、基本賃金を日額とする点において定員内職員と別異の取扱をされるほかは「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」によつて一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員及び民間事業の従業員の給与その他の事情を考慮して定めることとされ、これに従つて公労法八条の規定により労使の協議により決定されることになつており、賃金の額が団体交渉によつてまとまらないときその他労使間において意見の一致をみない場合には、公労法第六章の定めるところにより公正妥当な解決が図られるべきものとされているほか、各種の協約によつて夏期、年末、年度末の各手当、扶養家族手当、寒冷地、薪炭購入の各特別給等各種の手当を支給されることとされており、更に雇用期間の満了した「定期作業員」に対しては、国家公務員等退職手当法あるいは本件減給処分当時施行の失業保険法が適用されて、退職手当あるいは失業保険金が支払われることになつていること、また休日ないし休暇制度については、定員内職員に対して与えられる有給休暇が年間二〇日であるのに対し、「常用作業員」に与えられるそれが勤続年数に応じて年間一〇日ないし二〇日であり、また「定期作業員」に対して与えられるそれが雇用期間内に九日にすぎない点を除けば、原告ら「常用作業員」及び「定期作業員」に適用される作業員就業規則及び昭和四四年四月に林野庁と全林野との間で締結された「国有林野事業の作業員の週休日および作業休日に関する覚書」により、定員内職員と同じく原則として毎日曜日が週休日とされ、更に祝日も休日とされているほか、一ケ月につき二日の作業休日が設けられており、更に定員内職員と同じく八時間労働制が確立していること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。そして右事業によれば、原告ら定員外職員は、雇用期間、身分保障、賃金、休日等の労働条件において定員内職員より若干不利益な取扱を受けていることは否めないが、右程度の不利益は、職務内容、労働形態等の差異に伴うやむを得ないものというべきであつて、信義誠実の原則に反するほどの不利益とは認められないのみならず、原告らに対しては、公労法四〇条一項等の国公法附則一三条所定の定めをした規定を除き、国公法の諸規定が適用されるのであつて、単に国公法の懲戒の規定のみが適用されるものではないから、原告らの処遇について、林野庁のいわゆる定員内職員と異る定めがなされていることをもつて、規則一二―〇・三条の規定に基づく本件減給処分が信義誠実の原則に反するものないしは処分権の濫用であるとすることはできず、原告らの右主張は失当である。
四次に、原告らは、減給処分は労基法九一条所定の制限を受けるとの解釈を持していた林野庁当局との間において右解釈を雇用契約の内容として雇用されたものであるから、一方的に同条の制限を超えて行われた減給処分は違法である旨主張する。そして<証拠>によれば、林野庁職員課の編集昭和二三年三月一〇日発行にかかる「国有林野事業就業規則解説」なる図書中に原告ら主張のごとき趣旨の記載のあることは認められるが、右の解釈が正当として支持することができないものであることは、すでに述べたとおりであるし<証拠>によれば、昭和三五年九月一日発行にかかる前記図書の改訂版において、同職員課も、国公法は労基法の特別法であるから減給処分については規則一二―〇・三条の適用があるとその解釈を改めていることが認められるのみならず、本件全証拠を精査するも、林野庁と原告らが本件減給処分前直近時における雇用契約の締結に際し、原告ら主張のごとき解釈を雇用契約の内容とする合意をしたと認めるに足る証拠はない。従つて、前記解釈が雇用契約の内容となつていることを前提とする原告らの前記主張は、その余の点を検討するまでもなく理由がなく失当である。
五以上のとおり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(原島克己 福井厚士 仲宗根一郎)